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浦和地方裁判所熊谷支部 昭和49年(ワ)135号 判決

原告

山崎一郎

被告

間篠明

ほか一名

主文

一  被告らは、各自原告に対し、金七七万八九六七円とうち六九万八九六七円に対する昭和四八年三月一八日から、うち八万円に対する昭和五一年七月二四日から多支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。

四  この判決は一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

一  被告らは、各自原告に対し、金一二四万八五九七円とこれに対する昭和四八年三月一八日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行宣言

第二請求の趣旨に対する被告らの答弁

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第三請求の原因

一  事故の発生

原告は、左記の交通事故(以下、本件事故という。)によつて、傷害を受けた。

1  発生日時 昭和四七年一一月二六日午前八時頃

2  発生場所 埼玉県行田市大字荒木一六五九番地先路上

3  加害車 自動二輪車

右運転者 被告間篠英雄

4  被害車 軽乗用車

右運転者 原告

5  事故態様 原告が、右本件事故現場付近の交差点で停止信号のため停車していたところ、被害車に追従して時速約五〇キロメートルで進行していた加害車が被害車に追突した。

6  傷害 原告は、本件事故のため第九胸椎圧迫骨折の傷害を受けた。

二  責任原因

被告らは、それぞれ次の理由により、本件事故により生じた原告の損害を賠償する責任がある。

1  被告間篠明は、加害車を保有し、自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

2  被告間篠英雄は、先行車である原告車との車間距離を十分に保ち、追突等の事故を未然に防止すべき注意義務があるにも拘わらず、これを怠つた過失により、民法七〇九条の責任。

三  損害

(一)  慰藉料 四〇万円

原告は、本件事故の治療のため次に述べるようないくつかの病院に入、通院したので、これによる精神的損害は次のようになる。

1 中田病院通院 四五日間

昭和四七年一二月一八日から昭和四八年一月三一日まで(実日数一〇日)

2 蓮江病院通院 一〇二日

昭和四八年一月二九日から同年二月一日まで(実日数二日)及び

同年三月一八日から同年六月二三日まで(実日数三六日)

3 蓮江病院入院 四四日間

同年二月二日から同年三月一七日まで

4 小久保病院通院 二四日間

昭和四九年二月五日から同月二八日まで実日数九日)

(二)  付添看護費 五万二八〇〇円

蓮江病院に入院中、原告の母が付き添つたので、一日の費用を一二〇〇円とみて。

(三)  蓮江病院通院雑費

1 駐車料 七七一〇円

昭和四八年四月二一日から同年一一月三〇日までの間合計五三回に亘り通院した際、羽生駅前の羽生観光旅行会に支払つた自動車やオートバイの駐車料金の合計

2 交通費 一万八九二〇円

同年二月一日から同年一一月三〇日までの間合計八六日間通院する際の交通費(電車賃、バス代)合計

(四)  休業損害

1 昭和四八年度休業による損害 五三万一六四四円

原告は、本件事故当時オグラ宝石精機工業株式会社に勤務しており、普通に勤務していれば一ケ月五万四九〇〇円、一ケ年六五万八八〇〇円を得られたはずのところ、本件事故のため休業し、合計一二万七一五六円しか得られなかつた。

2 昭和四九年度休業による損害 二一万五二八六円

原告は、通常に勤務していれば一ケ月七万一二〇〇円、四ケ月で二八万四八〇〇円を得られたはずのところ、欠勤があつたため同年一月から四月までの間で合計六万九五一四円しか得られなかつた。

(五)  得られるべき賞与が得られなかつたことによる損害

1 昭和四八年度上半期賞与損害金 七万〇六八五円

通常の勤務をしていたなら一二万九五六一円を得られたはずなのに、本件事故による欠勤のため五万八八七六円の賞与しか得られなかつた。

2 同年度下半期賞与損害金一二万一五五二円

通常の勤務をしていたなら一五万一七四七円を得られたはずなのに、欠勤が多かつたため三万〇一九五円しか得られなかつた。

(六)  弁護士費用 八万円

四  損害の填補 二五万円

五  まとめ

以上により、被告らは各自、原告に対し金一二四万八五九七円とこれに対する本件事故発生の後の日である昭和四八年三月一八日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いをなすべき義務を負う。

そこで、原告は被告ら各自に対し、右金員の支払いを求める。

第四請求原因に対する答弁

一  請求原因一項のうち1ないし4の事実は認め、その余の事実は争う。

本件事故は、加害車が停止する直前に被害車の後部バンパーに加害車の前輪が軽く追突したというものであつて、事故とはいえない程度のものであり、被告英雄及び同乗者は転倒もせず全く負傷もしていない。一方、被害車も後部バンパーの接触部分が僅かへこんだ程度で修理の必要のないものである。又、原告は、事故後身体の異常を全く訴えておらず、事故直後も引き続き職務に従事していたものであり、仮に原告主張の傷害があつたとしてもそれは本件事故と因果関係のないものである。

二  第二項のうち、被告明が加害車を保有し、自己のため運行の用に供していたこと及び被告英雄に本件事故につき原告主張の過失があつたことは認める。

三  第三項については、原告主張の損害の額や内容は不知、損害と本件事故との因果関係は否認する。

四  第四項について。

原告が自賠責保険より受けた金額は二五万一一〇〇円である。

第五証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生と責任原因について

(一)  本件事故の発生に関する請求原因一項の1ないし4の事実及び被告の責任原因に関する同二項のうち、被告明が加害車を保有し、自己のため運行の用に供していたこと並びに被告英雄に本件事故につき原告主張の過失があつたことは当事者間に争いがないから、被告明は自賠法三条に基づき、被告英雄は民法七〇九条に基づき、原告のうけた後記損害を賠償すべき責任がある。

(二)  そこで、まず、本件事故の態様について判断する。

いずれも成立に争いのない甲九号証、甲一一ないし一四号証及び原告本人尋問の結果によれば、被告英雄は、加害車後部に友人を同乗させたうえ、加害車を運転して時速約五〇キロメートルの速度で、先行する被害車と約二〇メートルの車間距離を保ちつつ本件事故現場付近を羽生方面から行田市方面に向けて進行中、被害車が本件事故現場付近の信号機により交通整理のなされている交差点付近に差しかかり、同所付近で停止信号のため停止したのを、同車との距離が約一一・五メートルの地点で気づき、危険を感じて直ちに急停止の措置をとつたが間に合わず、自車(加害車)前部を被害車後部に追突させたこと、が認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  次に、原告の傷害の部位、程度について検討する。

いずれも成立に争いのない甲一号証、甲二号証の一ないし四、甲三号証、甲一〇号証、乙一号証、前掲甲一二号証、証人山崎しま、同蓮江正己の各証言並びに原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

原告は、本件事故発生直後の頃は、殆んど体の痛みも感じなかつたうえ、被告間篠英雄から、「学校で登校の際自動二輪車を使用することは禁止されているので、本件事故のことは学校や両親に話さないで欲しい。」旨を要請されたため、本件事故につき警察への届出もしないでいたところ、事故後約一週間程した頃から背中に痛みを感じだしたが、被告英雄から右のような要請があつたこともあつてしばらくの間は病院へもゆかず、体の調子をみていたものの、やがて痛みに耐えかね、昭和四七年一二月一八日埼玉県加須市所在の中田病院の診察を受けたところ、胸椎捻挫との診断を受け、暫くの間同病院へ通院して治療を受けたが、原告としては、経過が芳しく思われなかつたので、昭和四八年一月二九日同県久喜市所在の蓮江病院で診察を受けたところ、第九胸椎が骨折しており、このため屈伸運動の制限と背部の筋肉痛が生していることが判明したが、しかし、原告には、本件事故以前から潜在していたと思われる少年性圓背があり、右のような圓背のない普通の姿勢の人ならば本件のような追突事故を受けても胸椎の圧迫骨折を起こす可能性は少いのに、原告には右圓背があつたため前記胸椎骨折が生じたと考えられる状態でもあつたこと、右蓮江病院の蓮江医師は、原告が本件事故による傷害によりかなり神経質になり、自律神経失調を呈して痛みを気にしすぎていると思われたため、原告に対し、前記骨折を気にかけず、又、事故と圓背とを余り結びつけずに圓背の矯正のための体操をして職業に邁進するよう指示して、昭和四八年三月一七日原告を退院させ、以後は通院治療を施していたが、同年五月一五日のレントゲン撮影の結果前記圧迫骨折は一応症状が固定したことがわかつたので、同医師は、同年六月末を以て本件事故による疾患の治療が終了し、その後の治療は原告が元来有していたと思われる圓背に対してのものと判断し、同年七月からの治療は社会保険に切り換えて行い、更に、同医師が原告を診察した最後の日である同年一一月三〇日頃には、右圧迫骨折はそれ以上症状が悪化しないと思われる状態で固定したので、右同日頃を以て右骨折は治癒したと考え、原告に対し、就業も可能である旨伝えたこと、しかし、原告としては、依然として痛みがとれず、十分な就業ができなかつたため、昭和四九年二月五日同県熊谷市所在の小久保病院へ通院して治療を受けたこと、右通院当初の頃原告は、両手指の運動時痛、上肢倦怠感などを訴えてはいたが、頸部周囲痛は余りなく、間もなく経過の良好、症状の改善が認められたとして同月二八日を以て同病院での治療は終了しその後原告は一切の治療を受けていないこと、しかし、原告としては尚も背中に痛みを感じるなどのため必ずしも十分な労働をすることができる状態ではなかつたこと、

以上のとおり認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

以上の事実関係からすれば、本件事故が前記第九胸椎圧迫骨折の一因をなしていることは否定できないが、他方、原告に本件事故前から潜在していたと思われる少年性圓背が今一つの原因となつていることも明らかである。

このように傷害が単に事故を唯一の原因として発生したのではなく、被害者自身の有する潜在的病巣、体質などの要因とからみ合つて発生したような場合には、その傷害に基づく損害全部を事故による損害ということはできず、事故が右傷害の発生に寄与している限度において相当因果関係が存するものとして、その限度で被告らに損害賠償責任を負わせるのが、公平の理念に照らして相当と考えられるところ、本件の場合、前記のとおり、原告は本件傷害にかなり神経質になり、これがため原告の損害が拡大した部分が全くないともいえない事情も窺われることも合わせ考えると、本件傷害に基づく原告の損害については、本件事故がその発生に七割程度寄与しているとして、同損害の七割の限度で被告らに賠償させるのが相当である。

二  損害

(一)  治療関係費 五万五六〇一円

前掲甲一号証、甲二号証の一ないし四、甲三号証、原告本人尋問の結果及び右結果によりいずれも真正に成立したと認める甲一五号証の一ないし五三、甲一六号証の一ないし三並びに証人山崎しまの証言によれば、原告は本件事故による受傷のため原告主張の期間合計四四日間入院し、同主張の間に少くとも合計実日数五七日間の通院治療を受け、この結果次の損害を蒙つた事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

1  入院付添費 三万六九六〇円

入院期間四四日の間原告の母が付き添つたのに対し、原告主張の日額一二〇〇円のうち前記相当因果関係の範囲内である七割に該る八四〇円を相当として計算した額。

2  通院雑費 一万八六四一円

原告が通院するにつき支払つた自動車の駐車料七七一〇円及びバス、電車賃一万八九二〇円、合計二万六六三〇円のうち、前記相当因果関係の範囲内である七割に該る一万八六四一円。

(二)  休業損害 五九万三三六六円

証人角田耕平の証言及び右証言により真正に成立したと認める甲四ないし六号証、証人山崎しまの証言並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故当時オグラ宝石精機工業株式会社に勤務し、レコード針の加工作業に従事していたが、本件事故による入、通院等のため多くの欠勤をし、昭和四九年四月二日には、右作業が細かい手先の動きを必要とするなどのため十分な労働ができないとして、右会社を退職したこと、原告が正常に勤務していれば得られたはずの一ケ月の給料は、昭和四八年一月から同年三月までの間は四万〇七〇〇円、同年四月から昭和四九年三月までの間は五万四九〇〇円、同年四月のそれは七万一二〇〇円、以上合計八五万二一〇〇円であるところ、右欠勤等があつたため原告が昭和四八年一月から昭和四九年四月までの間の給料として現実に取得した給料の合計は一九万六六七〇円でしかなく、結局、原告は差引六五万五四三〇円の得られるべき収入を失つたこと、又、正常に勤務していれば得られるべき右期間中の賞与の額は、昭和四八年上半期が一二万九五六一円、同下半期が一五万一七四七円のところ、右欠勤のため原告が現実に得た賞与の額は、夫々、五万八八七六円、三万〇一九五円であり、差引合計一九万二二三七円を失つたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

ところで、右休業損害のうち本件事故と相当因果関係にあるのは、前記のとおり七割に該る部分であるから、原告の休業損害は、四五万八八〇一円(給料分)と一三万四五六五円(賞与分)の合計五九万三三六六円となる。

(三)  慰藉料 三〇万円

原告が本件事故により前記の傷害を受け、前記の期間入、通院をしたこと、本件事故が原告の傷害に寄与した割合は七割であることその他本件事故の態様等を考慮すると、原告の本件事故による精神的苦痛に対する慰藉料としては、三〇万円が相当である。

(四)  損害の填補 二五万円

原告が被告らから二五万円の支払いを受けたことは原告の自認するところであるから(被告らは右支払額は二五万一一〇〇円である旨主張するが、それを認める証拠はない。)、原告の前記損害総額から右の填補分を差し引くと、残額は六九万八九六七円となる。

(五)  弁護士費用

本件訴訟の経過等に鑑み、本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用は八万円が相当である。

三  結論

以上判示のとおり、被告らは原告に対し、本件事故による損害賠償として、七七万八九六七円およびうち弁護士費用を除く六九万八九六七円に対する本件事故発生ののちの日である昭和四八年三月一八日以降、弁護士費用につき本判決言渡の日の翌日である昭和五一年七月二四日から各支払いずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いをなすべき義務があることが明らかである。

よつて、原告の本訴請求は、右の限度において理由があるから、これを認容し、その余の請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木敏之)

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